作品No.9 クロスカディア

シリーズタイトル クロスカディア
レーベル 富士見ファンタジア文庫
既刊 1巻(以下続刊)
発表形態 文庫書き下ろし(長編)
イラスト担当 谷口ヨシタカ
メディアミックス 特になし
備考 仮タイトルは「世界をめぐる5つの月」。
独断によるジャンル 魔法と科学が融合した感じのファンタジー
管理人のお気に入り度 ★★★
【解説と感想】…とりあえず1巻時点

 スレイヤーズ本編完結後、満を持して登場した富士見での新作…しかもファンタジー、と言うことで、個人的期待度はかなり高い作品でした。んでもって、読んでみての感想は、一言で言えば「普通」と言った感じ。面白いことは面白いです。でも、その面白さが実に平凡な面白さなんです。なんかおとなしい、というか、こう今までの神坂作品に比べて個性が薄いというか…。

 詳しく解説します。クロスカディアの世界設定は充分魅力的。ファンタジーの形態として、純粋魔法世界(スレイヤーズ)、現実世界から異世界への召喚(日帰りクエスト)に続いて、魔法と科学が融合している世界という、まだやってなかった世界観の独自アレンジは見事です。続いて、記憶喪失の不思議少女というヒロインもお約束ながら面白い素材。記憶喪失ネタって物語が長く続くとかなり高確率で使われるし、パロディものでも常連ですよね。レギュラーキャラが過去をなくしちゃったり、自分が誰だかわからないキャラクターが登場、ってありがちだけど、何というか心引かれる展開なんです。少なくとも私は…。あなたも心当たりありませんか?なぜだかはよくわからないけど…。そんでもって、主人公の少年が、そんな不思議なヒロインとの出会いで戦いに巻き込まれていく、という冒険アクションものの王道のストーリー。…って言っちゃうとお手軽に聞こえますが、面白いからこそ王道なんだと思います、このパターンは。これらの要素を総合して、クロスカディアは確かに面白い。逆に面白い要素をそろえている、とも言えると思います。しかし、その面白さは最初に述べた通り実に「普通」。別に、ありがちだとか、予定調和だ、っていうことではないです。よくあるパターンの独自アレンジはうまい。でも、クロスカディアは面白さのツボをごく普通にをついている…そんな感じがします。「普通」、「普通」と言っていますが、要するに…クロスカディアは神坂節が薄いんです。

 神坂節とはスレイヤーズのコーナーにも書いた、強烈個性の主人公とお約束の打破。クロスカディアはその点が薄いんですね。

 お約束の打破に関しては、クロカ(勝手に略称)では特にないですね、今のところ…。メイが記憶喪失状態なのに気にもとめずに脳天気、っていうくらいで…。これも、そんなに打破しきってないような気がします。でも、「お約束の打破」は、今までの作品でも特に行っていない作品もあるのでそんな気にすることはないでしょう。

 そして、神坂作品の一番の特色で味とも言える主人公について。シンは、今までの作品の共通項とも言えた、ツッコミ・(結果的に)前向き・エグいの神坂主人公的要素が薄いんです。もちろん、全くそれがないわけではない。メイのボケに対してツッコミをしてるし、自分の心をすっきりさせるため、あえてディーバに立ち向かう姿勢はまさに神坂主人公的思考。行動が何かとエグい、という点はシンに関してはあまり感じないけど、それはヒロインのメイに使われているので一応クリア…。だけど、今までの神坂主人公たちに比べると、特に個性が強い、と言う風に感じないんです。何というか、やはりシンは「普通」、なんですね…。人生設計無難に立てて、面倒なことにはあまり首を突っ込みたがらない。だけど、正義感というか、人間としての良心みたいなものはちゃんとあって、なんだかんだ言いながらメイを受け入れてしまう。取り立てて目立つところがない印象です。ヒロイン、メイも「自称悪人」というのは変わってるけど、何だか普通に不思議少女、という印象…。シェリフMSのコーナーで「全部あの性格じゃあまずいんじゃあ…」的なことを書きましたが、人間というのは不思議なもので、「こうなるのはわかっているけど、それでも好き」っていう感情があるんですね…。ジャ○プマンガが次から次へと強い敵が出てきてひたすら戦う物語、ってわかっていてもなんか燃えちゃうとか…。いや、私だけなのかも…。と言うことで、少なくとも私はそういう人間なんで、無意識のうちに「神坂作品には神坂作品的主人公」というのを求めてしまっているみたいです…。だから、シン…そしてクロスカディアにはちょっと物足りなさを感じてしまいました。

 しかし、逆に考えれば、クロスカディアは新しい神坂ワールド、と言えるのかもしれません。今まで、私個人と致しましては、どうしてもスレイヤーズを意識して読んでしまう傾向にありました。しかし、クロカはほとんど意識せずに読めました。先ほど「お約束の打破」はない、と書きましたが、実は「今までの神坂作品のお約束」を打ち破っているのかもしれないなあ…と何となく思いました。シンも、これからどんどん強くなっていくキャラクターのようですし、この先だんだん味が出てくるのかもしれません。と、言うことで「普通」の面白さと今後の展開を期待して、1巻時点ではまり度★3つ、とさせていただきました。本当に、これからどうなるのか、楽しみにしたいと思います。

 さて、なにやらお堅い批評になってしまいましたが、ここからは、面白かった部分について語りたいと思います。

 まずは「普通」とか言いつつも、シンが成長していく様子は正直ちょっと燃えました。実力はあるのに、実戦経験が浅いシン。最初はビビっていたけど、吹っ切れて実力発揮…という流れはよかったです。この「実戦で充分な戦いをするには何か吹っ切れないとダメ」という理論は、スレイヤーズや日帰りクエストでも言われていましたが、そこを丁寧にやったな…という感じです。これから強くなっていきそうなシンに期待。

 それからメイ。触れ込みでもある「自称悪人」はちょっと生かし切れてない、というかあまりスパイスとして今ひとつでしたが、物語の鍵を握る少女、という点が純粋に面白いです。なにやらすごい術が使えたりして。記憶喪失っぷりも○だし…。あとは部下その1の任命がいいですねぇ。でも、リュクセノールはイラストがぷりちーだったので、レギュラー化して欲しかったですぅ。神坂先生も猫好きがついに作品に反映されるのかっ、とか思ったんですが…。どうやら次々と動物を部下にしていくスタイルのようですね。それはそれで面白いからよし!イラストと言えば、メイは表紙の頭のとんがりがない方がかわいいと思います。っていうかあれ何…?はっ、あれはいま流行のネコ耳もどきですか?やはり萌え路線なのですか?(笑)

 そういえば、あのあとがきって…。謎ですねえ。新しいスタイルで面白いけど、個人的には新作に対する意気込みやエピソードなどを聞いてみたかったり…。

 クロスカディアの感想、と言うよりなんだか1巻の感想、と言う感じですが(1巻しか出ていないから当たり前ですが…)、とりあえず今のところはこれで…。

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