謎その4 デモン・ブラッドとの魔力増幅の謎・上

 魔血玉(デモン・ブラッド)のタリスマン…リナがゼロスから強引に買い取った呪符で、4つで一セット、魔力容量(キャパシティ)を増幅することができる…。このタリスマン便利なアイテムなわけですが、その作用は実は結構謎。この増幅できるキャパシティはバケツキャパシティなのか?それともプール・キャパシティなのか…?というのが今回の疑問です。作中では

「…その四つを使って魔力容量(キャパシティ)を増幅してんでしょ」(H5p74)
「…術者の魔力容量
(キャパシティ)を増幅させる、などという芸ができてしまうのだ」(H6p103)

 と言う風に表記されており、どちらのキャパシティを増幅させているのかは書かれていません。まあ、バケツキャパシティ、プールキャパシティ、と言う用語は作中には登場しないので当然なのですが…。と言うことで、今日はデモンブラッドの謎に迫ってみます。

★魔力容量とは…

まず、先ほどから使っている魔力容量(キャパシティ)についての用語解説から…。

 魔力容量(キャパシティ)=魔力の大きさには二つの意味があり、それぞれ通称「プールキャパシティ」、「バケツキャパシティ」、と呼ばれます。

◆プールキャパシティ
 魔道士が持っている魔力の大きさでゲーム風に言うと最大MP(マジックポイント)。その大きさが魔道士の能力を左右する要因となる。理論上上限はない(実際はあるだろうけど…)。

◆バケツ・キャパシティ
 魔道士が一度に使うことが出来る魔力の量で、ゲーム風に言うと一回に使えるMP(マジックポイント)の最大値。その限界は種族により一定となる。

 どんなに大きな魔力を持っていても、一度に使える量には限界があるので、その限界値を超えた呪文は使うことが出来ない。「プールにどれだけ水が入っていても、バケツで汲み出す量はバケツの大きさを超えられない」、という例えがそれぞれの名前の由来。ちなみに、ドラグ・スレイブは人間の持てるバケツキャパシティを最大限に使った術、とのこと。

(H3.p273のあとがきをもとに作成)

 つまり…ゲームのMPで例えると…。とあるゲームに、

 魔道士A 最大HP300 最大MP200(これがプールキャパシティになる)
 魔道士B 最大HP300 最大MP100
 魔道士C 最大HP300 最大MP90

というキャラがいるとします(このゲームは架空のものです)。ヒットポイントはノリで付けましたが無視して下さい。そんでもって使える魔法リストが、

 魔法a 消費MP:10 魔法b 消費MP:20 

                      …中略 魔法y 消費MP:90魔法z 消費MP:99

 っていう風になっている(魔法は消費MPが大きいほど威力も大きい、とします)。このゲームでは消費MPは2桁までしかないとします。と、言うことで仕様上消費MP100はあり得ません。つまり、99が一度に消費できるMPの限界値、と言うことになります。これが、このゲームにおける限界ののバケツキャパシティになります。

 魔道士Aは200のMPを持っていますが、一度に消費出来るMPは仕様上99が限界です。それゆえ、99以上のMPがあっても、それを越えてMPを消費することは出来ません(というか、99以上MPを消費する魔法はこのゲームでは存在しないはずです)。つまり、彼のバケツキャパシティ=99となります。しかし、魔道士Aが魔法zを使った場合、残りMPは101と、99以上のMPがあるため、彼はもう一度続けて魔法zを使うことが出来ます(連打)。

 最大MPが100の魔道士Bも魔道士A同様、バケツキャパシティは99です。ところが、魔道士Bが魔法zを使った場合、残りMPは1になってしまうため、彼は魔法zを連打する事が出来ません。

 また、魔道士Bは最大MPが90のため、一度に使えるMPの限界もも90となり、プールキャパシティ=バケツキャパシティ、になります。と、言うことで、魔道士Bは魔法zを使えないことになります。まとめは下の表を…。

  バケツキャパシティ プールキャパシティ 最強呪文 魔法zを連続で使える回数
魔道士A 99 200 魔法z 2回
魔道士B 99 100 魔法z 1回
魔道士C 90 90 魔法y 0回

 スレイヤーズ世界では魔法zがドラグ・スレイブに当たるわけですね。うろ覚えですが…SFC版「スレイヤーズ」では消費MPは2桁で、ドラスレがちゃんと消費MP99の最強呪文になってました。あれはわかりやすかったです。…と、こう言うことでいいんですよね…。ここまで書いていてなんですが…。

★最大バケツ・キャパシティ以上の呪文

 ところが…原作のスレイヤーズ世界はこのゲームのように単純ではありません。ご存じの通り、スレイヤーズ世界には、人間の最大のバケツ・キャパシティを使うドラグ・スレイブより多くの魔力を消費する呪文が存在するのです。ドラグ・スレイブはあくまで「人間レベル」の最大バケツキャパシティを使う術。人間レベル以上のバケツキャパシティがあればそれ以上の魔力使用もOKとなります。

 ドラスレ以上の魔力を消費する呪文は次の3種類に分けられます。

1.ブラスト・ボム、ゼラス・ブリッド、ラグナ・ブレードなどリナが魔力を増幅して使用する呪文。
2.人間以外の種族が使う人間が使えない呪文。
3.ギガ・スレイブ。

 魔力の増幅を考える点での本題は1番の例になるのですが、まず、2番、3番を解説します。

 人間以外の種族は人間より大きなバケツキャパシティを持っているものがいます。さっきのゲームで言うと、本来存在しないはずの3桁の消費MPもOK。つまり、魔族やドラゴン、エルフは、人間レベルのバケツキャパシティを使う呪文をポコポコ使える、と言うことです。ミルガズィアさんが使っていた「ゼラス・ファランクス」などがこの2番の例。

 そして3番…ギガ・スレイブ。ギガ・スレイブはリナの通常の魔力状態――つまり、タリスマンの増幅をかけなくても使える呪文です。しかし、その魔力の消費量は、バケツキャパ最大のはずのドラグ・スレイブをはるかに上回っています。それは、ギガスレ使用後のリナの消耗具合からも明かです。上にもあげたH3のあとがきで作者さんが「重破斬の方は最大MPによります」と解説していますが…これは一体どういうことなんでしょう…?最大MP、つまりプールキャパシティがどんなにあっても、一度にバケツキャパシティを越える量の魔力は消費出来ないはずです。

 いろいろ解釈を考えた結果、ギガ・スレイブはバケツを介さず直接プールの水を使用している、と言うことでは…?という結論に至りました。つまり、プールをひっくり返して水をぶちまけちゃう、っていう…。呪文にそそぎ込まれる魔力消費だけでなく、プールをひっくり返しちゃうほどのエネルギーを使うわけですから、術者への負担も相当なものです。当然体力、気力も使い果たしちゃう。リナの髪の変色もこのへんが要因なのでは…と思ったり…。実際可能なのか、ですが普段バケツを使うのは、水が一度に減らないようにセーブしているためで、プールの水を全部使いきってもいい場合はバケツを使う必要はない、という理屈はどうでしょうか…?ギガスレは余力を残せず、問答無用で魔力がなくなってしまう…みたいな…。なんか理屈苦しいですね…。どうなんだろう…。とりあえず、少なくともギガ・スレイブは通常の魔法とは違う、裏技的な呪文である、といえるのではないでしょうか?

 さて、本題とも言える 1番。リナがタリスマンによる増幅を経て初めて使える呪文について。この呪文は例にも挙げた、ゼラス・ブリッド、ラグナ・ブレードの三種が作中に登場しています。このうち、ブラスト・ボムとラグナ・ブレードはタリスマンを手に入れる前のリナが『呪文としては完成しているはずなのに発動しないもの』としてストックしていた呪文。発動しない理由として、「単に魔力容量(キャパシティ)がたりないゆえ」と説明しています(H5p180)。ちなみにゼラス・ブリッドは手に入れてからに開発したもののようです(H6p240)

 ここに登場する「魔力容量」と言うのはバケツキャパシティのはずです。リナは人間の最大限のバケツキャパを要するドラグスレイブを使えるわけですから、それでも使えない呪文、というのはバケツキャパが足りない、と言うことになる…と思います…。あくまでギガスレは例外、と考えてください。デモンブラッドで増幅をかければこれらの呪文は使えるわけですから、デモンブラッドで増幅しているのはバケツキャパシティ、と言うことになります。つまり、またまた先ほどのゲームの例で言うと3桁の消費MPが可能になる、という…。

 ちょっと脱線しますが、どうやら魔法の威力は魔力の消費量に必ずしも比例しないようですね。純粋威力ではドラグ・スレイブの方がゼラス・ブリッドよりは高いでしょうし…。でもこれは当然なのかも知れません。例えば原子爆弾と原子力発電では、破壊力、と言う意味では断然原爆の方が大きいですが、使っている技術や労力は原発の方が上なわけですし…(こんな例えでいいのか…)。スレイヤーズの魔法でも技術料、の様な魔力を消費しているのかもしれません。ゼラス・ブリッドは、魔法の軌道を操れる、という点で高い技術が必要なのでしょう。

★プールキャパシティも増幅!?

 さて、タリスマンで増幅できるのはバケツキャパだ!、めでたしめでたし…で終わるならこうしてわざわざ取り上げる必要はないでしょう(これだけ長く語っといてアレだけど…)。

 話はリナが原点…タリスマンを手に入れた本編5巻のエピソードに戻ります。このエピソードで、リナはマゼンダに魔力を封じられて魔法が使えない状態でした。そして、そんな状態をいくらかでも緩和するためにタリスマンを買ったはず…。そして、魔力を封じられたリナは、タリスマンによる魔力増幅を行って、初級呪文を操れるようになった。…この時のリナはそもそも魔力の絶対量、つまりプールキャパが減っているわけですから、バケツキャパがいくら増えても魔法は使えないはずです。上のゲームの例では魔道士Cがバケツキャパ増幅しても、魔法zを使えない、と言うことです。しかし、実際リナは魔法は使えている…。

 さらにこの表現…本編10巻でタリスマンによる増幅を行うシーン。

 「それとはっきりわかるほど、あたしの全身に魔力がみなぎる。」(H10p134)

 果たして、バケツキャパが増えたことで、魔力がみなぎる様を体感できるでしょうか?いや…私達は魔法使えないわけだし、実感出来る、っていわれちゃえばそれまでなんだけど…。つまり…タリスマンはバケツキャパだけでなく、プールキャパも増幅しているのでは?という結論に至ります。本編9巻のフィブリゾとの戦いの時、リナはタリスマンで魔力増幅をしてギガ・スレイブを使いますよね。その時

「これらな(未完成ギガスレのこと)、呪符(タリスマン)の力を借りれば、なんとか制御もできるはず」(H9p192)

(フィブリゾのセリフ・これは完成版を使った後) 
『正直言って、ひょっとしたら制御しちゃうんじゃないか、とは思ってたんだ。
魔血玉
(デモン・ブラッド)呪符(タリスマン)もあるし、ね。』(H9p201)

 っていう表現が使われています。ギガ・スレイブは本来増幅のいらない呪文です。おそらく、より多くの魔力があれば安定して使えるはず…という意味での制御ができる発言なのでは…?いろいろとまどろっこしい事を言いましたが、タリスマンはプールキャパ、と言うか、術者の持っている魔力も増やしているのでは?、ということです。

 またまた9巻話ですが、未完成版ギガ・スレイブを使って、魔力がつきたはずのリナが、直後に完成版ギガスレを使えたのは、一度は尽きかけた魔力をタリスマンで増幅していたから、ということで納得できます。

 さて、タリスマンの増幅については実はまだ疑問点があるのですが、書いていたらすっごい長くなっちゃったのでそれは次回。今回はこれにて終了です。今回は「タリスマンではプールキャパとバケツキャパの両方を増幅してくれる便利なアイテム」と言う結論に至りました。

 

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